2010-06-25

バスを待つ若者の唄

僕が日ごろ使っている、路線バスの話。

僕が降りる某バス停には、いま僕が乗ってきたバスをほぼ毎日のように待ちわびている一人の若者がいる。

「彼」がバスを待つ目的は、バスに乗車することでは、ない。

バスの乗車口扉が開いたあたりに、バス会社のチラシ・・・観光案内などの類の・・・がひもで吊るされているのだけれど、そいつを毎日一枚ずつ収集するのが、「彼」の日課なのだ。


今日。

くだんのバス停でバスを降りたのだが、どうやら「彼」の姿はそこにはない。

バスの到着がいつもより早かったのか(それは通勤ラッシュの時間帯で、しかも終着地点に近いバス停なので、いつもだいたい 5~6 くらいは遅れる)、「彼」の方でよんどころのない事情が発生したためなのかはわからない。

珍しいな、と思いながらそのまま目の前の大きな交差点まで歩いていくと、交差している道路をクルマがびゅんびゅん通っている中を、大声をあげながら向こう側から赤信号を無視しし、こっちに向かって突進してくる「彼」が、そこにいた。

不思議と、クルマはクラクションも鳴らさず、「彼」の進行を妨げようとしない。

僕の背後のバスは、もうすでにバス停を離れて右折レーンに入ろうとしている。

「彼」は、まるでノアの方舟に乗り遅れてしまった野生動物のような血相で、信号待ちしているクルマの間を、まるでクルマなんかそこに存在していないかのように、すいすいすいと鮮やかな移動をこなし、やがてバスに辿りつくことができたのだった。

ぼくは、「彼」が車道のまんなかで、バスの乗車扉を開けてくれと懇願しているところまで様子をみていたが、結末まではあえて確認しなかった。

きっと、「彼」のあの熱情は、今日の大事な日課を無事遂行させたに違いないからだ。


その若者が、僕はずっと大好きなんだ。

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