2010-09-27

早稲田で泯さん / 下北沢で 8mm

金曜日。

早稲田大学・大隈講堂で、『国際ペン東京大会2010』のプログラムの一つとして、莫言(Mo Yan)作:「牛」朗読、というのを観てきた。

講談師、神田松鯉の語り口は、まるでラジオドラマを聴いているよう。人物の描き分けが流石に上手いのだが、ぼくにはちょっと味が濃い。濃厚なとんこつラーメンみたい。

その後ろで、ステージ背面に大きく映し出された、人形と画を合成した紙芝居風の映像が、かなり細かく切り替わる。これも相当に、濃い。

この二つが場を占拠していて、ぼくはアレルギーを起こした。

大体半分くらいまで観たかな、というところで席を立とうとした矢先。

泯さんが豹変した。

いつのまにか着ていた衣装がなくなり、ほぼ、全裸(もしかしたらほんとに全裸)になっていた。

思わず目を見張り、浮きかけた尻がまた席に着陸する。

その瞬間から、急に舞台上のすべての要素が一つの塊になったのだった。

話は、牛の病禍が絶頂を迎えようとしていたとき。

泯さんは、この日は「牛」の気配を踊りで表現していた。

むー、と唸ってしまった。

そこから、残り半分のストーリー(全編で約1時間半の作品)が一気に展開される。

終わって、司会者によるカーテンコールの中、田中泯さんにひときわ大きな拍手。

もちろん、僕も盛大に拍手を送った。

終わりよければ全てよし。



土曜日。

下北沢 la camera で山崎幹夫・山田勇男両監督の、8mm作品上映を観に行く。

この日の時間割は以下。

15:30~
Bプロ
山崎幹夫『散る、アウト。』1984年/8ミリフィルム/22分
山田勇男・山崎幹夫『往復V』2006年/8ミリフィルム/50分
山崎幹夫『1979/2010』2010年/HDV/10分

17:30~
Cプロ
山崎幹夫『グータリプトラ』1999年/8ミリフィルム/55分
山田勇男『冬の旅』2010年/8ミリフィルム/38分

19:30~
Aプロ
山田勇男『鏡の鏡』2008年/8ミリフィルム/19分(音楽付け替え版)
宮田靖子『月日譚』2010年/8ミリフィルム/17分(東京初公開)
山田勇男『夏の早朝と十二月の夕方』2010年/8ミリフィルム/45分(初公開)


15:30から、全て観た。

いきなり『散る、アウト。』で衝撃。あまりにも格好良い。
劇中で使われていた、バンドによる音楽が素晴らしかったので、あとで山崎監督に訊いたらまだ学生だった勝井祐二さんが在席していたバンドによるものだったそうな。

『往復V』。山崎、山田両監督による、映像を使った即興演奏のようにもみえた。
互いの掛け合いが、単なるコール&レスポンスなのではなく、何か新しい別のものを知らずに作ろうとするかのような、なんだかとても羨ましい会話にみえた。

『1979/2010』。ああ、映像ってこういうことなんだよなぁ、ってことを思い出した。どういうこと、って言われても一言で説明できないけれど、『記録であり作品である / 時間の経過は質感の経過でもある / 脳で考えたアイデアをある程度そのまま他人に見せることができる=脳鏡 / 8mm とデジタルムービーとでは、同じ監督が同じ作品を撮ったとしても、意味や意義がまったく違う作品になってしまう』とかなんとか。

『グータリプトラ』。早回しで映し出される、三重露光の雲や太陽。猫。こたつ。日本酒のラベル。ピンサロのネームカード。庭。庭のミッキーとミニー。雑草。夜。ネオン。イメージたちが、洪水、というような乱暴な表現ではなく、むしろ反対にとても優しいタッチで一つ一つ丁寧に闇の中に消えていく感じ。

『冬の旅』。映像だけでここまで詩を表現されているのを、初めてみたと思う。8mm って、それだけでずるい手法なのかもしれないが、単なる質感だけで終始するのではなく、被写体を、ある一定の決意によって撮影され、切りだして繋がれスクリーンに映写されたなかには、心地良いリズムや、見えない言葉たちがたくさん存在していた。編集の緻密さに、なんだか音楽的なものを感じた。

『鏡の鏡』。ただただ、美しい。

『月日譚』。のっけから「月」の映像にびっくり。これほんとうに 8mm で撮影したんですか。

『夏の早朝と十二月の夕方』。コラージュ。今日一日の締めくくりに、すかっと抜けがよくて思い切りのよい映像による即興演奏を観た気分。素晴らしい。


A、B、C の組み合わせや順番は日毎変わるのだが、今日のこの流れはとても良かったと思う。

かなり長時間にわたっての鑑賞だったが、あっという間だった。


全プログラム上映終了後、la camera でそのまま打ち上げ。

森崎偏陸さんのタンクトップ・モード、炸裂。偏陸さんお手製の味噌が差し入れで用意されていたのだが、これが激美味。キュウリがそのへんに生ってないか、本気で思い出そうとした。ここは下北沢だっつーに。偏陸さんのマグマ塩の話に興味津々。

というわけで、結局ずっと偏陸さんの話を聞いていただけだったけど(笑)楽しかったな。


今日は秋らしく清々しい日柄だったので、チャリで移動だった。

かなり酔っ払っていたけど、涼しい夜風に撫でてもらいながら、調布まで 2 時間近くかけてゆっくりと夜のサイクリング。

さっき観た 8mm の余韻がとても心地良かった。

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