2011-02-07

perfect pitch

最相葉月著「絶対音感」(新潮文庫)を読んだ。

ちなみに、絶対音感はぼくには、ない。
ギターというのは自分でチューニングしなきゃいけない楽器なのだけれど、チューニングメーターや音叉がそばにないときはとりあえず他の楽器に合わせたり、それもないときは BGM でかかってる音楽にあわせて「この音が A(ラ)かな」などとてきとーにあわせるので間に合わせる。
そんないいかげんな楽器を弾いてるので、「絶対音感」というものとはまったく縁がないといっていい。

あるいは、ピアノだってチューニングは狂う。
昔ジャズ屋で P.A. やっているときはぼくも「なんちゃって調律師」をしていた。
とはいえ、ゼロから調律するのはさすがに無理。
ぼくができるのはせいぜい、1音につき3本のピアノ線が共鳴するピアノという楽器の、その3本の微妙なズレを直すことくらいである。
微妙なズレをそのままにしておくと、ホンキートンクピアノというか、なんだかモジュレーションがかかったような甘い音になってしまう。

ただし、微妙なズレとはいえ適当には直せないわけで、オクターブ上下の同じキーとピッチがあってるか、とか、和音を鳴らしてみて鳴り方が変じゃないか、というのは気をつけないといけない。
だから、厳密な意味での調律ではないにせよ、ザラーっと上から下まで音を出してみて「変なモジュレーションがかかってなくて、和音が綺麗に出る」調律ならできる、という程度である。
とはいえたったそれだけの作業でも、30分くらいはかかっちゃう。
モジュレーションがかかってるキーが3つもあると 1時間は要していたかもしれない。

そんなぼくが調律したピアノを、絶対音感のあるピアニストが弾いたら、もしかしたら気持ち悪い、と思われていたこともあったかもしれない。


さて、絶対音感、って、僕の周りでもなんだか錦の御旗のごとく有難がるひとがいたりするのだけれど、果たしてそんなにいいものなのかな、というのはなにかにつけ、気になっていたのだが、上記の本は、そんなぼくのもやもやをある程度すっきりさせてくれたとても良き読み物であった。

そもそも、絶対音感がそんなに有り難いものなのか?、という疑問をなぜ持ったかというと、一番の理由は上にも書いたように「世の中そんなに正確な音程の楽器ばかりではない」ということを僕自身がよく知っているからだ。

やはりというか、たった 1Hz の違いでも、世の中には気持ち悪くなるひとがいるんだとか。 うーむ。。

ギターの 1弦のチューニングが狂ってる、っていうのならわかるけど、楽器として全体的に 1Hz 違っている、しかも一緒に演奏する他の楽器も同じように 1Hz の違いでチューニングをあわせている、という状態で、いったい何が問題なのかぼくにはまったくわからない世界である。。


その他、いろいろと、興味深いトピックもあった。例えば、
日本の「絶対音感教育」というのは大戦中に軍事教育に利用されたことある(潜水艦や戦闘機が飛んでくる音を感知することが作戦に影響を及ぼす、という考え(!)、、それではまるで人間レーダーではないか)、とか、
アメリカの大きなホールに置かれている生ピアノは A=442Hz で調律されていたり、古楽器になると A=414Hz でチューニングする(ちなみにギターなどで使うチューニングメータでは、A=440Hz)、とか、
「ド・レ・ミ・・・」という呼び方には「ドはド」として捉える「固定ド唱法」と、調が変わってもルート音を「ド」だとする「移動ド唱法」ってのがある、
などなど。

最後の「移動ド唱法」ってなんかややこしい・・
そういえば、中学校の音楽の先生は教科書の音符に「よみがな」をつけるのが好きなひとだったけど、ハ長調じゃない楽曲のとき、五線譜の「レ」を「はい、ここはドで」みたいなこと言っててなんか混乱したことがあったな、、

昔ジャズを習った先生は、「音楽の教科書も A とか Bb(フラット)で教えればいいのに」と言っていた。
それ、ぼくも賛成。
「嬰ハ短調」っていうよりも「C#m(シー・シャープ・マイナー」っていう方がいまどきは解りやすいと思うし、余計なこと覚えなくていいと思うんだけど(そもそも「嬰」ってなんて読むの・・)


楽曲を聴いた瞬間、すらすらと譜面に音符を書くことができる能力は、それを目の当たりにすると「おおかっこいい」と思うのだが、それをなすための「絶対音感」という能力がもたらす弊害も考えると、これからはなんだか複雑な心境に陥りそう。


本書を書かれた最相葉月さんは、音楽家ではない。

なので、絶対音感が良い・悪い・という視点ではなく、あくまで「絶対音感とはなんなのか」という興味だけから、緻密な調査を経てこれを書かれている。

深読みなどはせずとも、「絶対音感」という題材の裏に横たわる、ときには音楽とは関係がないものも含めたいろいろな問題を知ることもできる。

とても面白い一冊。

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